2013年5月12日日曜日

基本的な情報の提示


お天気キャスターが深刻そうな顔をして、「今日の午後は嵐になるおそれがあります…」と言っていたら、予定などを変更して外出を控えるか、それが無理なら雨具などの備えをして出掛けるでしょう。

でも外は、とても良いお天気です。どう見ても嵐が来るとは思えません。しかもそのニュースでは、気圧配置の図も気象衛星からの写真も、つまり嵐が来るかどうか予想するのに必要な情報が、まったく示されて無いのです。今日の行動を決める判断材料として、この天気予報は役に立つのでしょうか?



ハイフィントンポストに掲載された次の記事は、ちょうどそんな感じです。

この記事で、書き手が言っている事は以下の二行だけです。
懸念されるのは、日本の輸出する原子力技術が、核兵器製造に使われないかという点である。
日本がどのような内容で原子力協力協定を結ぶのか、注意する必要があるだろう。



日本が原発をサウジアラビアに輸出したら、核兵器製造に使われるおそれがある…。これは、冒頭に挙げたデタラメな天気予報と同じように、デタラメな記事です。仮にサウジアラビアが核兵器の開発と保有を目指していたとして、少なくとも技術的なハードルと国際政治のハードルがあるでしょう。

天気予報の喩えで言うなら、技術的な可能性を気圧配置図、国際政治上の可能性を気象衛星から見た雲の様子としましょう。それらの情報は、過不足無く示されているでしょうか? はっきり言って、まったく示されていません。

日本が原発をサウジアラビアに輸出したとして、それが核兵器製造に利用できる事を推測させる技術的な根拠が、まったく書かれていません。同時に、サウジアラビアにとっても日本にとっても強大な後ろ盾である米国が、そんな事を容認すると推測出来る根拠も、まったく書かれていません。

なによりも、記事がわざわざ引用しているように、サウジアラビアは既にフランス・中国・韓国と、原子力協力協定を結んでいるのです。技術的に考えれば日本よりも、核保有国であるフランスや中国との協定に懸念を感じるのが自然ではないでしょうか? しかし、そんな懸念が国際社会や米国から示されたなどと、聞いた事がありません。

つまり、嵐が来るおそれがあると言っているけど、外は良いお天気なのです。長くなるので省略しますが、気圧配置図(技術的なハードル)を見ても、雲の衛星写真(国際政治のハードル)を見ても、嵐が来るとはとても思えません。



この記事を書いた人は、単に日本の原発が輸出される事に反対なのでしょう。その思いが先行して、前提になる基本的な情報を蔑ろにしたのでしょう。この記事に限らず、日本版ハフィントンポストには、そうした記事が少なくありません。ちょうど、テレビや新聞といった既存のメディアがそうであるようにです。しかしこのような記事では、日本の原発輸出をどう考えるかという判断材料には、まったくなりません。むしろ根拠の無いネガティブイメージで、合理的な判断の邪魔をする材料になりそうです。

こうあって欲しいとメディアに望むポイントの一番目は、その記事の妥当性を判断するのに必要な基本情報を、過不足無く示すということです。テレビや新聞なら時間や文字数の制限もあるでしょうが、ネットなら参考リンクの表示など方法は有ると思います。メディアサイトとして新しく登場したハフィントンポストが、今後そうなって行くように期待したいと思います。



次のエントリーでは、二番目のポイントである視点の問題を考えてみます。



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